押入れを整理するのこと
 いわゆる「たまの休日」という言葉とともに私が得たものは「休みの日だってのになんでこんなことを」である。 しかしながら大体においてこの「休みの日だってのに」は、ろくでもないことや時間の無駄とも思えるようなことを する羽目になる、という悪いイメージを含んではいるものの、結局のところはただ面倒くさいだけで いずれはせねばならないようなことをしているだけのことが多い。 そんなわけで私が休日を丸々つぶしてカオスのごとき部屋の整理や掃除をしたことは別段に愚痴るほどのことでもない。

 その部屋の掃除のなかで目に付いたのがプリンターである。昨年末に壊れてしまって新しく買い換えたものの、 古いプリンターはどこに片付けられるでもなく部屋の床、机の下にそのまま放置されていたのである。 どのみち狭い部屋なのでそのまま放置しておこうかとも思わないでもなかったが、掃除機をかけるのにも都合が悪いし、 何よりこの機会に片付けてしまわないと私の性格からしてまた当分床に放置されたままになることは必死だったため、 しばしの逡巡のあとひとまずは廊下に運び出してどこにしまおうかと思いを巡らせる。

 そこでふと思い出したのは押入れにそのまましまってあったはずの、このプリンターの箱である。 なるほど、プリンターの箱にしまいこんでしまえば新しく置き場を用意せずともすっきりと片付くのである。 時折自分ですら閉口する私の物持ちのよさもたまには役に立つものである。 思い至るが早いか私は押入れの扉を開けてしばしの物色のあと、やすやすとプリンターの箱を見つけ出した。 上に積んである箱だの本だのを横にのけて箱を開けてみると、思いがけないものが出てきた。

 昔使っていた PC の増設メモリーの空き箱、換装用 CPU の空き箱、何かの外付けデバイスの空き箱……。 プリンターの箱の容積はことごとく昔に買った PC 周辺機器の空き箱で占められていたのである。 やはり私の保管癖は閉口ものである。これではプリンターがしまいこめないではないかとひとたびは落胆したものの、 次の瞬間にはこれら今やジャンク同然のアイテムの、しかもその空き箱に私の目は奪われていた。 すっかり忘れ去っていたが、これが私の歴史である。 PC-9821 に夢中になっていたあの頃の、私そのものなのである。

 なんともいえない感傷を覚えてふと押入れを眺めてみると、そこには 10 年前の、 15 年前の私があった。 小学生の頃学校で作ったもの、中学生の頃大事にしていたもの、わけのわからぬままに買ってしまったもの、 よくわからないもの、教科書、参考書、ファイル……。すべて私が歩き、生きてきたその道筋にあったものだ。 そして同時に押入れにしまいこむことで忘れ、見ないようにし、向き合うことをやめたものたちである。 それらを目の当たりにし、突きつけられてしまった。

 押入れの天井は思っていたよりも低かった。三段に仕切られた収納スペースの一番上の段は いつも見上げるばかりで、たしか椅子か何かに登らないと物が置けなかったはずだ。 いつの間にか私はそんな時代と身長を通り越して大人になってしまっていたらしい。 遊ぶことに、学ぶことに、生きることに夢中になっているうちに、いくつもの物証を残して私の過去は本当に過去のものになってしまっているらしい。 見てはいけないものを見たような気分と、それでも向き合わねばならないような気分のなかで 私は押入れの扉を閉めた。

 あ、プリンタどうしよう。

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